「高いモノを買ったら、安いモノに興味がなくなった」——それは心理学的に正しかった

「高いモノを買うと、安いモノに興味がなくなる」のは本当だった

「安かろう悪かろう」という言葉がありますが、近年は「安くて良いモノ」も多くなり、コストパフォーマンスを重視する傾向が強まっています。

しかし実際には、多少高くても“自分にとって納得できる良いモノ”を手に入れると、それ以下のものには興味がなくなってしまう——そんな経験をしたことがある人は少なくないのではないでしょうか。

筆者もその一人です。例えば腕時計。昔はG-SHOCK、スント、ルミノックスなど、1万円から5万円台の時計をいろいろと試していました。でもある時、思い切って15万円のセイコーのダイバーズウォッチを購入してから、**それが自分の中で“基準の時計”**になってしまい、それ以下の価格帯の時計に手を出す気が起きなくなったのです。

ギターも同じでした。FenderやEpiphoneなど10万円前後のギターをとっかえひっかえしていたものの、Gibson Les Paulを購入してからは「もうこれでいいや」と思うように。パワー感、サステイン、質感、見た目——すべてが満足できるものだったからです。

このように、「高いけれど、自分が納得できるモノを持つと、それ以下には興味がなくなる」現象には、心理学的な理由があるのです。


キーワードは「リファレンスポイント」

この現象を説明するのにぴったりなのが、行動経済学でいう「リファレンスポイント(参照点)」という概念です。

人は物事を「絶対的な価値」で判断するのではなく、“自分の基準”との相対的な違いで評価します。この基準となるのが「リファレンスポイント」です。

たとえば、これまで1万円の時計を身につけていた人にとって、3万円の時計は「高級で上質なモノ」に映るでしょう。しかし、15万円の時計を手に入れた人にとっては、3万円の時計が「チープに見える」ようになる。

これはその人の「時計に対する満足度の基準(リファレンスポイント)」が15万円レベルに上がったからです。結果、それ以下のモノに対しては無意識のうちに「物足りなさ」を感じ、興味が薄れていくのです。


認知的不協和の回避

さらに、心理学には「認知的不協和」という概念があります。

これは、自分の信念や行動に矛盾があると、心理的な不快感(不協和)を覚えるため、それを避けようとする働きです。

例えば、15万円のギターを「自分にとって最良の選択」と考えて購入したあとに、5万円のギターを買っても「でもやっぱりGibsonには敵わないよな…」と違和感を覚える。すると、人は無意識のうちに、「それ以下のギターは買わない方が自然」という一貫した行動を取るようになります。

これは、自分の選択を正当化し、心理的整合性を保とうとするごく自然な防衛反応なのです。


高価なモノが「節約」になる場合もある

このように、一度自分にとって“納得できる上質なモノ”を持つことで、結果的に無駄な買い替えや衝動買いを減らし、「長い目で見ると節約になる」こともあります。

筆者の場合もそうでした。安価な時計やギターを定期的に買い替えていた頃と比べて、セイコーのダイバーズウォッチやGibson Les Paulを手に入れてからは「もうこれでいい」という気持ちが強くなり、買い替え欲求が大幅に減りました。

もちろん、用途によってはG-SHOCKのようなタフな時計が必要になる場面もあります。しかしそれはあくまで目的に応じた使い分けであり、「もっと良いモノが欲しい」という消費欲とはまた別のものです。


「満足」を買うとはどういうことか

結局のところ、人がモノを買うときに求めているのは「性能そのもの」だけではなく、「所有することで得られる満足感や安心感」です。

そしてその「満足感」は、一度上のレベルを知ってしまうと、元には戻れない性質があります。これもリファレンスポイント理論で説明できる現象です。


まとめ

  • 高価なモノを買った後に、安価なモノに興味がなくなるのは自然な心理である。
  • その背景には、リファレンスポイント(参照点)の変化や、認知的不協和の回避が働いている。
  • 自分にとって「納得のいくモノ」を買うことは、無駄な出費や選択疲れを防ぎ、結果的に「節約」になることもある。

買い物の価値は「価格」ではなく、「どれだけ自分が納得できるか」によって決まる。
そう考えると、ちょっと高い買い物にも勇気を出して手を伸ばしてみる価値はあるのかもしれません。

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